知的農業支援システム

概要

知的農業支援システムの研究では、栽培圃場のセンサネットワークを介して蓄積した膨大なデータを、統計分析や機械学習を用いて適切に処理することで熟練農家が持つ高度な栽培技術を機械的に再現する研究開発を行っています。現在は、画像とセンサデータを組み合わせたマルチモーダル深層学習を用いて植物の環境応答や生理状態を推定・予測するAI(Agri-heir)及び、同AIを用いた灌水制御システム(図1)の研究開発と実証実験を進めています。


図K
図1 機械学習で熟練農家の栽培技術を再現した自律栽培システム

 

Agri-heir: 熟練農家の匠の技を後継する人工知能

Agri-heir(アグリエア)は、植物の生体データや環境データに対して統計処理や機械学習を駆使することで、熟練農家の匠の技である高度な栽培技術を後継する人工知能です。施設園芸環境におけるデータの収集・分析を用いて、植物の環境応答(図2)を推定・予測し、その結果に基づいて栽培を制御することで、果実の品質や収量を向上できる農業支援システムを目指しています。これまでに、画像とセンサデータから植物の環境応答の一つである茎の太さ(茎径)の変化を予測できる機械学習アルゴリズム(Multi-modal SW-SVRMDCD等)を研究開発し(図3)、この機械学習アルゴリズムでは、時系列画像から時間経過に伴う変化のみを抽出したり、画像処理によって画像中の不要な領域をマスクすることで(ROAF)、様々なノイズが混在する栽培環境下でも高精度な予測を実現しています。また、数10~数100万件といった膨大なデータを必要とする深層学習の欠点を克服するべく、少ないデータ数でも高い性能を発揮する前処理と機械学習アルゴリズムの研究にも取り組んでいます。機械学習における前処理の効果は、図4のアプリケーションで学習データの組み合わせ、前処理(マスク)の有無、データ量の関係を変えることで体感できます。詳細な学習アルゴリズムはGitHubのソースコードをご覧下さい。

図2 植物の環境応答の例(左:晴天日 右:曇天日)

図3 Multi-modal SW-SVR: 植物の茎径の変化を予測する機械学習アルゴリズム

 

図4 学習データの質と量の関係を体験できるWebアプリケーション

灌水制御AIによる高糖度トマト栽培の実証実験

2018年度に実施した灌水制御AIの実証実験では、高糖度トマトの大量安定生産に成功しました(プレスリリース)。Multi-modal SW-SVRを発展させた灌水制御AIと、当研究室の研究開発成果であるIoT向け優先度制御通信プロトコル(オープンソース公開予定)、高信頼無線センサネットワーク等を組み合わせたAI灌水制御システムを開発し、地元企業である㈱Happy Quality(宮地社長ら)、サンファーム中山㈱(玉井社長ら)と連携しながら、灌水制御AIによる中玉トマト栽培の実証実験を行いました(図5)。その結果、灌水制御AIは平均糖度8.87(最大16.9)と、従来の日射比例による灌水制御を超える高糖度トマトを機械的かつ安定して大量生産できることが示されました。また、AIによる制御では、灌水や成長によって変化の仕方が変わる茎径のように、植物の環境応答といった、ある意味、植物の顔色をうかがいながら灌水制御することで、果実の可販率向上につながることも確認できました(図6)。
今後、様々な異なる栽培条件での実証実験を進めるだけでなく、IoTやAIといった情報科学的アプローチを活用した新たな栽培手法の確立、教育教材化など研究開発していきます。また、本技術の実用化を目指し、静岡大学発ベンチャーとして起業したアグリエア㈱や地域社会と連携し、長年の経験と勘に基づいて習得したノウハウの効率的な継承や、AIとの協働による生産性向上、競争優位性の実現を目指していきます。



図5 実証実験の様子



図6 実証実験における果実の品質

謝辞

本研究は,下記事業の支援を受けて行われました.
<戦略的創造研究推進事業 さきがけ>
研究領域: 情報科学との協働による革新的な農産物栽培手法を実現するための技術基盤の創出
研究課題名: 多様な環境に自律順応できる水分ストレス高精度予測基盤技術の確立
研究代表者: 峰野博史
A-SAP産官学金連携イノベーション推進事業
プロジェクト名: 農業AIを用いたストレス栽培向け灌水制御の実現
申請企業名: (株)Happy Quality
プロジェクトリーダー: 峰野博史

知的農業支援研究グループメンバ

峰野 博史 教授
兼田 千雅(2017年修了)
柴田 瞬(2018年修了)
若森 和昌(2019年修了)
小野田 晃久(2020年社会人修士修了)
水野 涼介(2020年修了)
内山 仁(修士2年)
後藤 将弥(修士2年)
中西 豪太(修士2年)
河合 孔明(博士1年)

関連研究業績

  1. Kazumasa Wakamori, Ryosuke Mizuno, Gota Nakanishi, Hiroshi Mineno, “Multimodal Neural Network with Clustering-based Drop for Estimating Plant Water Stress,” Computers and Electronics in Agriculture, Vol.168, Article ID 105118, 14 pages, doi: 10.1016/j.compag.2019.105118 (Jan.2020). (5yIF:3.538, Q1)
  2. Kazumasa Wakamori, Hiroshi Mineno, “Optical Flow-Based Analysis of the Relationships between Leaf Wilting and Stem Diameter Variations in Tomato Plants,” Plant Phenomics, Vol.2019, Article ID 9136298, 12 pages, doi: 10.34133/2019/9136298 (Oct.2019).
  3. Yukimasa Kaneda, Shun Shibata, Hiroshi Mineno: Multi-modal sliding window-based support vector regression for predicting plant water stress, KNOSYS (2017.9).
  4. 柴田瞬, 峰野博史 :Optical Flowを用いた複雑背景画像における草姿の変化検出, 情報処理学会論文誌 CDS (2017.5).
  5. 若森和昌, 柴田瞬, 峰野 博史:深層学習を用いた植物の水分ストレス推定手法の検討, DICOMO2017 (2017.6)(ヤングリサーチャ賞).
  6. 水野涼介, 柴田 瞬, 峰野博史:半教師あり学習を用いた植物生育モデリングの検討, DICOMO2018 (2018.7).
  7. 中西豪太, 水野涼介, 今原淳吾, 前島慎一郎, 峰野博史:植物収穫時品質に関与する経時特徴量の検討, DICOMO2018 (2018.7)(優秀論文賞).
  8. 中西豪太, 峰野博史:時間情報を考慮した収穫時品質予測手法の検討, 情報処理学会第81回全国大会 (2019.3).
  9. 後藤将弥, 水野涼介, 若森和昌, 峰野博史:植物の状態に自律順応する灌水タイミング決定手法の検討, 情報処理学会第81回全国大会 (2019.3).
  10. 内山 仁, 笠原永丞, 吉田敬正, 峰野博史:コンテンツ情報と通信環境を考慮したIoT向け優先度制御通信の実装と評価, 情報処理学会第81回全国大会 (2019.3).